京都・三条柳馬場通。
四条通からもほど近い繁華な通りを歩いていると、ふと足を止めたくなる一角があります。
そこが、坂本龍馬の妻・お龍の実家「楢崎家跡」です。
表通りから少し下った槌屋町84番地1。
いまは住宅や店舗に囲まれ、往時の面影はほとんど残っていません。
しかし、石碑が静かに佇み、ここが幕末を彩った女性の生家であったことを教えてくれます。
お龍 ― 幕末を駆け抜けた女性
お龍の名は「楢崎龍(ならさき りょう)」。
天保12年(1841年)、楢崎将作の長女としてこの地に生まれました。
彼女の人生は、まさに幕末の激動とともにありました。
龍馬との出会いはこのシリーズ第6回で取り上げた『土佐志士寓居跡』にて、楢崎龍の母と妹が土佐藩浪士たちの世話をしていたことがきっかけです。
そして慶応2年(1866年)、寺田屋遭難で負傷した龍馬を命がけで救い、その後、薩摩で「日本初の新婚旅行」とされる霧島・鹿児島への旅に出ました。
龍馬とともに駆け抜けた時間はわずか数年でしたが、その生涯は「日本初のハネムーンを経験した女性」として、いまも多くの人の心に残っています。

京都・三条に残る「楢崎家跡」
私が訪れたのは晴れた午後でした。
烏丸御池駅から歩いて10分ほど。三条通を東へ進み、柳馬場通を下がった槌屋町の角に「楢崎家跡」の石碑を見つけました。
石碑は大きくはありませんが、通りを歩いていると確かに目を引きます。
「坂本龍馬妻 お龍の実家 楢崎家跡」と刻まれた文字を目にすると、ここが確かに幕末の史跡であることを実感します。
石碑の前に立ち、周囲を見渡すと、いまは商店やビルが立ち並ぶ街並み。
しかし、150年以上前のこの地に、龍馬が通ったかもしれない家があった――そう思うと胸が熱くなりました。
ただし、慶応二年12月4日の龍馬の手紙の中に、お龍の父が亡くなった後、家が跡形もなくなくなっていることを記していることから、慶応二年当時には既に家はなかったものと思われます。

石碑の前で感じたこと
私はしばらく石碑の前に立ち尽くしていました。
観光客はほとんどおらず、街を行き交う人々も誰もこの石碑に気づかない様子です。
歴史の痕跡というものは、時にとても小さく、控えめに残されるものなのだと感じました。
京都の大寺院や有名史跡とは違い、ここには観光の華やかさはありません。
しかしだからこそ、龍馬とお龍の物語を静かに思い起こすには最適の場所でした。
もし龍馬がこの家を訪れたとすれば、二人の間にどんな会話があったのでしょうか。
新しい国の未来を語る龍馬と、それを支えるお龍。
石碑の前に立ちながら、私は二人の姿を想像してみました。

お龍と龍馬 ― 寺田屋から日本初の新婚旅行へ
お龍の実家跡を訪れると、どうしても思い出すのが「寺田屋事件」です。
慶応2年(1866年)、龍馬が伏見の寺田屋に滞在していた際、幕府の役人に襲撃されました。
この時、お龍は裸足のまま風呂場から飛び出し、いち早く龍馬に危険を知らせます。
この機転によって龍馬は命を落とさずに済み、のちに二人は薩摩へ。
そこで霧島山や鹿児島を巡る旅に出ます。
この「薩摩旅行」は、のちに「日本初の新婚旅行」として広く語られるようになりました。
京都三条の小さな石碑は、そうした大きな物語の出発点を示す証人なのです。
現代の街と幕末の面影
三条柳馬場は、いまや飲食店やショップが並ぶ賑やかなエリアです。
石碑の周辺も観光客や地元の人でにぎわっていました。
しかし、石碑に足を止める人はほとんどいません。
私は写真を撮りながら、あらためて「史跡巡りの楽しさ」を感じました。
有名な観光地だけではなく、こうした小さな史跡にこそ、リアルな歴史の息づかいが残っているのです。
📍 楢崎家跡(坂本龍馬妻・お龍実家跡)
- 所在地:京都府京都市中京区三条柳馬場下る槌屋町84番地1
- アクセス:地下鉄烏丸御池駅より徒歩10分、または三条駅から徒歩12分
- 目印:石碑が通りに面して設置されている
訪れて感じたこと ― 幕末を支えた「女性の足跡」
龍馬といえば数々のエピソードや偉業が語られますが、その背後には必ずお龍の存在がありました。
彼女の勇気がなければ、龍馬はもっと早く命を落としていたかもしれません。
そして二人が共に見た未来は、短くも強い輝きを放っています。
石碑の前に立ちながら私は思いました。
幕末というと「男の時代」と語られがちですが、その陰で支えた女性たちがいたからこそ歴史は動いたのだと。
楢崎家跡は、その象徴ともいえる場所でした。
まとめ
「龍馬を巡る旅 第8弾」として訪れた楢崎家跡。
石碑一つが残るだけの小さな史跡ですが、そこには坂本龍馬とお龍の物語が凝縮されています。
京都駅からもアクセスしやすく、三条や木屋町の散策と合わせて立ち寄るのにおすすめです。
大きな観光名所では味わえない、「幕末の生活感」を感じられる場所。
歴史を愛する人にとって、この石碑の前で龍馬とお龍の姿を思い浮かべる時間は、何よりの贅沢になるはずです。
次回予告
次回は「龍馬を巡る旅 第9弾」として、龍馬と中岡慎太郎が眠る地――霊山護国神社を訪ねます。
Instagram連動
今回の訪問記録はInstagramにも投稿しています📷
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