京都駅から東へ歩いておよそ10分。
東本願寺の東側に広がる庭園「渉成園(しょうせいえん)」は、江戸初期の名園として知られています。
渉成園は単なる庭園ではなく、東本願寺の飛地境内。
その起こりは第三代将軍・徳川家光の寄進にさかのぼり、以来、歴代門主によって整備されてきました。
池泉回遊式庭園としての美しさに加え、幕末の歴史とも深く関わりを持つ場所です。
私が訪れたのは紅葉の時期ではなく新緑の季節でしたが、むしろ人影が少なく、じっくりと写真を撮りながら庭園を味わうことができました。
波打つ池面、松の緑、石畳の小径。京都駅のすぐ近くとは思えない静寂が、訪れる人を包み込みます。

閬風亭――龍馬も見たかもしれない場所

園内の東南隅に建つ「閬風亭(ろうふうてい)」。
白壁に瓦屋根の控えめな建物ですが、幕末好きにとっては特別な意味を持つ舞台です。
司馬遼太郎『竜馬がゆく』では、ここで坂本龍馬と幕府の大目付・永井主水正尚志(もんどのしょうなおむね)が会談する場面が描かれています。

幕府から目を付けられていた龍馬が、自らの身を危険にさらしながらも、大政奉還に向けた意見を交わしたとされる場面です。
縁側に腰を下ろし池を眺めていると、そんな歴史の一幕が脳裏によみがえってくるようです。
龍馬はこの静かな池を前に、どんな思いで幕府要人と語り合ったのでしょうか。
水面に映る木々の影にさえ、時代の気配を感じるようでした。
ちなみに、永井主水正は藤原鎌足の流れをくむ家系の出であり、作家・三島由紀夫の養高祖父にあたる人物。
こうした系譜を知ると、歴史の点と点が思わぬところでつながっていくのも興味深い発見です
渉成園を歩く ― 名園の魅力

渉成園の中央には「印月池(いんげつち)」が広がり、その周囲を巡りながら景色を楽しむ「池泉回遊式庭園」の姿が広がります。
池を一周すると、視線の先々に異なる風景が現れます。
橋を渡ると水面に広がる青空、松林を抜けると東山の稜線、さらに場所を変えると茶亭の屋根が池に映り込みます。
一歩ごとに景色が切り替わる仕掛けは、江戸時代の作庭師の工夫を感じさせます。
とりわけ印象に残ったのは、池にせり出すように建つ「回棹廊(かいとうろう)」。

ここから池を眺めると、まるで屏風絵の一場面に入り込んだような気分になります。
龍馬や志士たちも、この庭を歩き同じ景色を目にしたのかもしれない――そう思うと、庭園が一層特別なものに思えてきました。
散策中、誰かが木柵の上に置いた大きな果実を見つけ、思わず一枚写真を撮りました。

みかんかと思いきや、よく見ると柑橘系の別の果物のようでした。庭園の管理の方が置かれたのでしょうか。ドンと置かれたその存在感に思わず笑いそうになりました。
当日午前中は高校生のお茶の大会?が開催されていたようで、私が訪れた時間帯は既に撤収作業で皆さん忙しそうでした。

普段は建物の中は入れないようですが、外から内部の様子をうかがうことはできます。
現代の渉成園で感じたこと

散策の最後に、私は池のほとりに立ち、もう一度閬風亭を振り返りました。
夕暮れの光に包まれて、建物はどこか柔らかく輝いて見えます。
幕末の志士たちが夢見た国は、果たして今の日本とどれほど重なるのでしょうか。
彼らの理想は完全に実現したわけではないでしょう。
けれども、あの時代に確かに未来を信じて語り合った人々がいた。
その事実が、今もこの庭園に息づいているように思えました。
京都駅から歩いて行ける静かな名園。
観光地の喧騒から少し離れて、幕末の歴史と美しい庭園の両方を味わえる貴重な場所――。
渉成園・閬風亭は、まさに「歴史と自然の交差点」だと感じました。
📍 渉成園(枳殻邸)
- 所在地:京都府京都市下京区下珠数屋町通間之町東入東玉水町300 渉成園 京都市下京区下珠数屋町通間之町東入
- アクセス:JR京都駅から徒歩約10分
- 拝観料:大人700円(2025年現在)
- 閬風亭は園内東南隅に位置
まとめ
今回訪れた渉成園・閬風亭は、龍馬の足跡をたどる上でも重要な地でした。
「龍馬がゆく」で龍馬と永井が会談した歴史的な舞台であり、同時に京都を代表する庭園美を誇る場所。
池を渡る風に吹かれながら、私は「幕末」という時代を、ほんのひとときですが肌で感じることができました。
今回は他の史跡もいくつか巡る予定だったため、長時間の滞在はできませんでしたが、京都駅から近いこともあり、次回京都に訪れる際には庭園そのものと他の有名建築物もじっくり鑑賞したいと思います。
次回予告
次回は「龍馬を巡る旅 第7弾」として、龍馬の妻、お龍の実家である「楢崎家跡」を巡ります。
Instagram連動
今回の訪問記録はInstagramにも投稿しています📷
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