龍馬を巡る旅 第5弾|翠紅館跡――尊王攘夷の熱気が渦巻いた密議の舞台

翠紅館跡の正面 史跡巡り

司馬遼太郎『龍馬がゆく』を読んで以来、坂本龍馬ゆかりの地を一人で巡る旅を続けています。
これまでに最期の地「近江屋」、滞在していた「酢屋」、そして「池田屋事件跡」や「古高俊太郎寓居跡」を訪ねてきました。

第5弾となる今回は、龍馬や多くの尊王攘夷派の志士たちが集い、密議を重ねた翠紅館跡すいこうかんあとを訪れました。


翠紅館とは?

翠紅館跡 正面

翠紅館は幕末期、京の東山にあった屋敷で、その歴史は古く、もとはお寺の塔頭たっちゅうでした。塔頭とは大きな寺院の敷地内にある小規模な寺院や庵のことです。

その後、鎌倉時代に公家の鷲尾家が買い取り、西本願寺の東山別院に寄進されました。

「翠紅館」という名は、美しい庭園の景観に由来するそうです。私が訪れたのは紅葉の季節ではありませんでしたが、門越しにのぞく庭の奥行きと石畳に、京都らしい風情を感じました。秋の盛りには、鮮やかな美しい光景が広がることと思います。


尊王攘夷と翠紅館会議

石碑と説明板
石碑と説明板

ペリー来航以来、日本は開国か攘夷かの岐路に立たされていました。幕府の対応に不満を抱いた志士たちは、天皇を中心とした新しい政治体制を目指し、「尊王攘夷」の旗を掲げます。

(別シリーズで投稿している「天狗党」も尊王攘夷の志士たちです)

文久3年(1863年)正月27日には、尊王攘夷派の武市半平太たけちはんぺいた(土佐藩)、井上聞多いのうえもんた(長州藩)、久坂玄瑞くさかげんずい(長州藩)などの志士たちがここ翠紅館に集まり、攘夷実行の具体策を協議しました。

同年6月17日には桂小五郎かつらこごろう(長州藩)や真木保臣まき やすおみ(久留米藩)らも集まり、後に「翠紅館会議」と呼ばれる重要な会合が開かれます。

しかし、この熱気も長くは続きません。わずか2か月後、幕府方のクーデター「八月十八日の政変」により、尊王攘夷派は失脚。翠紅館は、尊王攘夷運動の盛衰を象徴する舞台のひとつとなりました。


現在の翠紅館跡

翠紅館跡正面

現在の翠紅館跡は、京都市東山区桝屋町356、高台寺や霊山へ向かう「維新の道」沿いにあります。

観光客でにぎわうエリアですが、この史跡で足を止める人は少なく、訪れたときも私ひとり。

入口には柵があるので奥には入れませんが、おかげで入口の門から奥につながる美しい庭園の景色を人を写さずに撮影することができます。

現地には石碑と説明板があり、150年以上前の密議の舞台がここであったことを静かに語りかけてきます。

石碑に刻まれた「翠紅館跡」の文字を見つめていると、150年以上前にここで交わされた密談やその熱気に包まれた緊迫した情景がよみがえるようでした。目の前の小道を武市半平太たちが歩いていく後ろ姿が想像でき、足音が聞こえてくるようでした。

説明板拡大

武市半平太の辞世の句

翠紅館跡の正面

翠紅館会議に参加した志士のひとり、武市半平太は、上記のとおり、その後捕らえられ処刑されます。
その最期に残した辞世の句がこちらです。

「ふたたびと 返らぬ歳を はかなくも 今は惜しまぬ 身となりにけり」

日本のことを思い、激動の時代を駆け抜けた男、武市半平太。

激しい世の中の変化とともにあわただしい人生を送っていた頃は、毎日毎日の一日が二度と帰ってこないことをはかなく思うこともあったが、いざ最後の瞬間を迎える今、全ては夢のようで、もはや惜しいとも思わない。

本気で日本のことを思い、激動の時代を駆け抜けた男の最後の瞬間に、静かな安寧が訪れた、そんな情景が思い浮かびました。

この「翠紅館会議」時には尊王攘夷運動はピークの盛り上がりを見せていましたが、同年8月18日の「八月十八日の政変」によって、尊王攘夷は勢いを失います。9月には武市半平太にも逮捕命令が出ます。その後、捕縛・投獄され、処刑へと向かっていくことになります。

翠紅館は、彼が最も輝き、そして坂を転げ落ちるように運命が変わっていく、その狭間の舞台でもあったと言えます。

翠紅館跡の庭

感想

維新の道
翠紅館跡から霊山を望む

翠紅館跡は派手な観光名所ではありませんが、歴史の息づかいを感じる場所です。
有名な事件や戦いの裏に、こうした密議の場があった――その事実に触れることも、史跡巡りの醍醐味ではないでしょうか。

関係する辞世の句を読みながら、しばらく史跡の前でたたずむのが私の史跡巡りの行動パターンなのですが、今回、翠紅館跡でたたずんていたところ、インド系外国人の母娘から高台寺の場所を尋ねられました。

うまく英語で説明できず、その後「ちゃんと英語を勉強しよう」と決意したのは、余談ですがこの旅のもうひとつの収穫です。


次回予告

次回は、「池田屋事件 もうひとつの舞台地」を訪ねたいと思います。


アクセス情報

翠紅館跡
所在地:〒605-0829 京都府京都市東山区桝屋町356
最寄駅:京阪本線「祇園四条駅」からバス約16分、徒歩約22分
周辺:高台寺、八坂の塔、二年坂など観光スポット多数


Instagram連動

今回の訪問記録はInstagramにも投稿しています📷


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